宇田川信学とは?デザインでNYの地下鉄を変えたデザイナーに迫る!
2015/06/06
かつては3K(危険、暗い、汚い)地下鉄とまで呼ばれていたNYの地下鉄。そんなNYの地下鉄を子供も女性も安心して利用できる地下鉄に蘇らせた1人の日本人がいる。
来年秋の米大統領選への立候補を表明したヒラリー・クリントンやマドンナと並び、『過去25年でもっとも影響力のあるニューヨーカー100人』にも選ばれた工業デザイナー、宇田川信学(まさみち)氏だ。
今回はデザインの力でNYの地下鉄を安全な地下鉄に変えた、宇田川信学氏のデザインの秘密に迫る。
NYの地下鉄を変えた「宇田川信学」とは?
スポンサーリンク
プロフィール
出典:adgang.jp
宇田川信学(うたがわまさみち)。1964年東京都生まれ。
千葉大学工業意匠学科卒業後、クランブルックアカデミーオブアート、アップルコンピュータ、IDEOを経て、97年シグリッド・モスリンガーと共に、「Antenna design New York」を設立。
米国ID Review賞、IDEA賞など受賞。
好きな芸術家はアンドレイ・タルコフスキーと黒沢明。
座右の銘は「意思あれば道あり」。
最初の仕事は自動券売機のデザイン
宇田川氏の最初の仕事はメトロカードと呼ばれる乗車券の、自動券売機のタッチパネル表示をデザインをすることだった。
依頼を受けた1999年当時、アメリカでは自動券売機が少なく、乗車券は窓口で購入してお釣りを受け取るため、通勤ラッシュに関係なく長蛇の列が出来ていた。
また、当時NYでは公衆電話や自動販売機が壊れていて使えないことは日常茶飯事だった。料金を支払っても機械が動かないことから、はじめにお金を入れる機械自体が敬遠されていた。
「どうすれば券売機を使ってくれるのか?」を考えた宇田川氏は人々の日常生活からヒントを得る。
買い物で客と店が交わす会話をよく観察し、券売機のタッチパネルにも「どの言語を使いますか?」「カードの種類を選んでください」等、簡単な質問や指示が表れる対話型のデザインを考案した。
一度に画面に表れる質問や指示は1つに絞り、買い物をする時と同様に支払いは最後にするという対話型の券売機は、今までは馴染みがなかった人々の不安を取り除き、簡単に乗車券を購入できるようになった。
出典:阪急交通社
地下鉄を変えた宇田川デザイン
地下鉄の自動券売機をデザインした実績を買われ、次に宇田川氏が受けた依頼は、地下鉄車両の車内空間をデザインしてほしいという仕事だった。当時のNYの地下鉄はとても治安が悪く、車両の中も落書きだらけだった。
宇田川氏はまず、自身の目で徹底的に地下鉄を見て回ることに決めた。いろいろな時間帯に、いろいろな路線に乗り込み、24時間運行の中で次々と変わる混み具合や客層を確認した。路線によって全く違う車内の雰囲気も肌で感じ取った。
”グラフィティ”と呼ばれる派手な落書きをどう落とすか、故意につけられる傷をどう防ぐのかを考え、具体的な策を講じるために、修理工場にも足を運んだ。
宇田川氏は、以前よりも明るい車内になるように、内観の色調を意識して80年代から導入されていた落書きされても消えやすいステンレス素材に、傷を目立ちにくくする効果のある細かい粒子を混ぜた素材を壁材に利用した。
床には汚れが見えづらくなるように、黒色のゴム素材を選択。ドア付近の座席には窃盗防止のために防護バーを設置した。
その結果、車内は明るく広く感じられるようになり、NYの地下鉄犯罪を85%も減らすことに成功した。2000年から走り出した「宇田川デザイン」の車両は現在、6路線以上で約4000台走っている。
最終的にはNYを走る地下鉄車両約6000台すべてが宇田川氏の車両になる予定だという。
出典:HEAPS
まとめ
警備を増やしたわけでも監視カメラを増やしたわけでもなく、宇田川氏はデザインだけで人々に影響を与え、行動を変えてしまった。
宇田川氏の座右の銘は「意思あれば道あり」だ。その言葉通り、NYの治安をデザインで解決するという明確な意思を持っての行動が、犯罪率85%減という驚異的な結果に繋がったのだろう。
今回はデザインとは何なのかを、書きながら考えさせられた。